研究概要 |
1.ラットの胸部大動脈の器官培養により胎児型ファイブロネクチンの遺伝子発現が著明に増加し,α-アクチンの発現は消失したことより平滑筋細胞のフェノタイプが収縮型から合成型へ変換していることが示唆された。さらに早期よりc-fos,c-myc,HSP70のmRNAレベルが上昇しており、またチロシンキナーゼ及びプロテインキナーゼCの阻害剤によりファイブロネクチン、c-fos,myc,HSP70の遺伝子発現が抑制されることより平滑筋細胞の形質転換にチロシンキナーゼ及びプロテインキナーゼCが関与していることが示唆された。 2.高糖濃度(5.5,16.5,33.0,55.0mM glucose)刺激24時間によりヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)へのTHP-1細胞(単球由来)の接着は浸透圧対照のMannitolに比べ濃度依存性に増加し55mMにて1.64±0.17倍増加した。300μg protein/mlのLDL,或いはVLDLにて単独刺激するだけでは、THP-1細胞のHUVECへの接着は変化なかったが,高糖濃度前処置にてHUVECでのLDL,VLDLあるいは酸化LDLやbeta-VLDLで著明に増加するリン脂質であるLyso-Phosphatidyl choline刺激に対する反応性は増大していた。また糖化LDL,VLDL単独処理では接着は増加しなかったが、高糖濃度処理群では各々2.30±0.55,2.61±0.66倍に増加していた。以上より(1)HUVECにおいて、リポ蛋白や酸化脂質による接着因子の発現は高糖濃度刺激により促進されているものと考えられた。(2)LDLのみならずVLDLも接着因子の発現といった点より糖尿病性大血管症の原因となりうることが示唆された。 3.高コレステロール血症の動脈硬化への意義は広く認められているが、高中性脂肪血症の動脈硬化促進性については議論が分かれている。今回糖尿病患者の頚動脈壁肥厚度(IMT)を超音波Bモード法を用いて定量し、血中リポ蛋白各分画、特に中性脂肪-richリポ蛋白の動脈硬化促進性を検討した。糖尿病患者のIMTは健常者より高値であり重回帰分析にて、年齢、性別、non HDLコレステロールと収縮期血圧がそれぞれ独立した寄与因子であることが示されたが、中性脂肪の関与は認められなかった。
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