研究概要 |
癌の化学療法において癌細胞の薬剤耐性獲得は治療成績の向上を阻害する最大の問題であり,発癌機構の解明と表裏一体をなしている.薬剤耐性機序は多剤薬剤耐性遺伝子(MDR1)産物のP糖蛋白が薬剤排出ポンプとして作用することが主なものとされている.われわれはP糖蛋白以外にも耐性機構が存在すると考え,物質の輸送などに関連する細胞骨格系の微少管について検討した.その結果,1)各種多剤薬剤耐性細胞ではアクチン,ビメンチンの増加は認められないが,α-,βチュブリン共に蛍光抗体法による発現量,mRNA量は有意に増加しており,2)この増加はMDR1-mRNAの発現増加の見られない細胞においても明らかであった.3)さらにチュブリン発現量の誘導は薬剤の種類によって異なり,アドリアマイシンはMTXなど他の薬剤に比べ誘導作用の強いことが示唆された.4)微少管構築を阻害するコルセミド添加により,MDR発現の有無に係わらず耐性細胞においても細胞内,特に核内の薬剤濃度は上昇し,耐性は解除された.5)これらのことより微少管構築はP糖蛋白とともに薬剤耐性に深く関与しており,薬剤の組み合わせ,量の設定や使用期間に微少管構築を考慮するとともに微少管を標的にした新たな薬剤の開発や使用が耐性克服に必要なことが示唆される.耐性細胞ではチュブリン遺伝子の変異も報告されており,現在この点も検討している.
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