研究概要 |
従来,抗白血病剤の効果は血中薬剤濃度(C)とその持続時間(T)との積,すなわちCxTや薬剤濃度曲線下面積(AUC)によって表されてきた。しかし,抗白血病剤が作用するのは細胞内の活性型であり,その生成は血中薬剤濃度とは必ずしも平行しない。そこで本研究では白血病細胞内における活性型の生成を測定し,そのAUCによって抗白血病剤の合理的投与法や組み合わせを検討した。L1210細胞またはHL60細胞の浮遊液にcytosine arabinoside(ara-C)を加えてincubateすると,細胞内薬剤濃度は数分で培地中薬剤濃度を凌駕して上昇した。細胞内の薬剤は殆どすべてがara-CTPでありfreeのara-Cは存在しないので,培地中のara-Cはかなり低濃度でも細胞に取り込まれ,速やかにara-CTPに活性化され細胞内に貯留すると考えられる。従ってara-C投与時には血漿中のCが上昇が低くてもTの長いほうが細胞内活性型濃度は高くなると考えられる。behenoyl ara-Cやstearyl ara-CMPのごときmasked compoundはara-Cを徐放するのでCが低い割合には細胞内活性型の生成は多い。また,細胞浮遊液にあらかじめ6-mercaptopurineまたは6-thioguanineを加えると,cytidine deaminaseの生成を抑制してara-Cの不活性化が減少し,細胞内ara-CTPの生成が増加した。さらにara-C中等量療法時に相当する10μg/mlの濃度ではladder DNA fragmentationを生じ,apoptosisによる細胞死が加わることも明らかにされた。 他方,ara-Cとdaunorubicin(DNR)とを作用させた上記白血病細胞のflowcytometryによると,ara-C→DNRの順序に作用させたほうがその逆の順序に作用させるよりG_1細胞の生成が少なく,次細胞周期へのprogressionが少ないこと,すなわち増殖抑制効果が強いことが解った。 これらの所見は白血病の化学療法に際してara-Cの抗腫瘍効果を増強するための使用法の適正化に有力な示唆を与えるものである。
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