造血幹細胞の増殖・分化は、生体防御機構としての免疫反応や炎症反応においても重要な役割を演じているサイトカインや増殖因子により制御されている。私達は単球・マクロファージ(Mφ)系細胞と間葉系支持細胞にそれぞれ特異的に発現しているMφコロニー刺激因子(M-CSF)と血小板由来成長因子(PDGF)受容体遺伝子の相互発現調節機構の存在に注目し、単球・Mφの増殖・分化の制御機構を解析してきた。構造的に保存されているが血液細胞分化誘導能の異なるMφコロニー刺激因子(M-CSF)受容体とPDGF受容体のキメラ受容体をIL3依存性マウス造血細胞(32D細胞)に発現させ、M-CSF受容体による造血細胞分化能の特異性を明らかにした。細胞分化能はリガンドおよび細胞外のリガンド結合領域に特異性を示さないことが明らかとなった。両受容体は細胞質内領域のうち傍細胞膜領域、キナーゼ挿入領域、カルボキシ末端にそのアミノ酸1次構造の特異性が見られる。M-CSF受容体傍細胞膜領域はPDGF受容体のそれに代償されるなど、こららの領域の細胞増殖能、細胞分化能や初期応答遺伝子発現へのシグナル伝達における機能的意義を明らかにした。 M-CSF遺伝子発現調節機構の解析により造血プログラムにおけるM-CSF/PDGF回路の重要性も明らかにした。例えば、マウスM-CSF遺伝子5′上流の発現調節領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流につなぎ、骨髄スローマ細胞へ遺伝子導入し、ルシフェラーゼアッセイにてTGFβ、IL1およびPDGFによる発現調節領域の同定をおこなった。これまでにも造血プログラムにおけるM-CSF/PDGF回路は、種々のサイトカインやホルモンなどヘテロロ-ガスな液性因子により修飾をうけていることを報告してきたが、本年度はペプチドホルモン受容体が細胞内情報伝達においてこれらのチロシンキナーゼ型受容体の細胞内情報伝達機構とクロストークすることを明らかにした。G蛋白共役型ペプチドホルモン受容体の1つであるコレシストキニン/ガストリン受容体にはリガンド依存性の細胞増殖作用が認められるが、M-CSF受容体と同様にc-SrcおよびRas-MAPキナーゼカスケードを活性化することを明らかにした。さらに、本受容体が正常ヒト血液細胞および種々の造血器腫瘍細胞株にも発現していることを見いだした。また、ガストリン受容体遺伝子発現も多くの造血器腫瘍細胞株に認められることも見いだし、オートクリン機構を介した造血細胞増殖促進機構の存在が示唆された。
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