研究概要 |
本研究によって、ヒト好酸球前駆細胞は、適度の伸展状態で増殖・分化を全うし得ることが示された。 1. 方法:ヒト臍帯血由来単核球をrhIL-3,rhIl-5を含む培地内で、9日培養した。付着性細胞を除去した後、主として好酸球前駆細胞を含む培養細胞をフィブリン凝固層内に植え込み、カバーグラス上から、著者らが導入した細胞伸展器によって圧し、5〜7日間培養し、倒立位相差顕微鏡ビデオ撮影を行ない、ディスクに収録した。これと平行して、位相差顕微鏡写真の撮影を随時行なった。 2. 結果.(1)ヒト好酸球前駆細胞の増殖:5〜7日の観察期間に多くの前駆細胞は3回の分裂の後、盛んに遊走する成熟好酸球へ分化した。世代時間は未熟細胞の方がより短く、同一細胞に由来する2つの娘細胞の世代時間は近似する傾向がみられた。未熟細胞の世代時間は30時間前後のものが多いが、より成熟した細胞の世代時間は40時間を超えるものが多く、90時間に達するものも少数ながらみられた。細胞伸展器を用いない場合、好酸球前駆細胞の増殖は用いた場合と比較して、世代時間に差はなく、伸展の影響は少ないと考えられた。 (2)ヒト好酸球の分化・核分葉・未熟細胞の成熟につれて、数個であった好酸性顆粒が増加して行くことが観察された。細胞運動の様式も未熟細胞では、全方向に向かう広く短い突起の発生のみであるが、中等度の成熟細胞では、1方向への狭い比較的長い突起の出し入れ(prodding)であり、成熟細胞では、その突出部が大きくなり、突出方向への細胞の遊走となる。この突出とともに、核も伸長し、細いbridgeでつながっている状態に見えることが観察されたが、かならずしも固定的ではなく、流動性を残しているように観察された。 細胞分裂の後、再融合する細胞が観察されたが、その生物学的意義は、今後検討を要すると考えられる。
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