研究概要 |
Central pontine myelinolysisは急速な低Na血症の補正に伴って発症し、細胞内浸透圧が十分に調節されずにおこる浸透圧調節障害である考えられてきたが、必ずしも低Na血症を伴わない症例があり、そして多くの症例でthiazide系利尿薬の使用などK欠乏を伴っていることから、本研究ではK欠乏と脳細胞浸透圧調節の関係を検討した。K欠乏状態にしたラットにおいて、経口的にNaClを投与し細胞外液を高浸透圧状態とした条件下に脳を摘出し、大脳皮質部およびCentral pontine myelinolysisに罹患やすいと考えられている橋を含む中脳、延髄(髄質部)に分け細胞内有機浸透圧物質含量を検討した。K欠乏群では血清K濃度の低下を認めた。血清Na濃度はNaCl投与により上昇したが、K欠乏群で有意に高値となった。脳組織Na,K,尿素,水分含量にはK欠乏およびNaCl投与負荷の如何にかかわらずいずれも差を認めなかった。myo-inositol含量は脳皮質および髄質において、NaCl飲水負荷前後いずれにおいてもK欠乏ratに有意な低下を認め、脳のmyo-inositol蓄積にKが重要な働きを担っていることが示唆された。glycine,aspatate含量は、脳髄質でのNaCl飲水負荷後のK欠乏ratでのみ有意に増加しており、myo-inositol蓄積減少を補うように蓄積されていた。taurine,glutamate,GABA,creatine含量は脳細胞浸透圧調節と直接は関連しないか、またはK欠乏による影響を受けなかった。これらの変化が脳細胞浸透圧調節と関連していることが示唆された。今後、脱髄を中心とする脳組織変化と有機浸透圧物質の関連性を検討する必要がある。
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