研究概要 |
1.乳腺においては、腺偏平上癌の1例を解析した。ホルマリン固定パラフィン包埋組織の薄切切片から、腺癌、扁平上皮癌、脈管に浸襲した未分化癌および正常組織を採取した。脈管に侵襲した未分化癌をはじめとし、すべて2-4mm^2の微小病変を対象とし、K-ras exon 1,2、p53 exon5,6,7,8の領域について解析した。K-ras exon 1,2領域では遺伝子変異は認めなかったが、p53では、腺癌でexon5,7、扁平上皮癌でexon5,7,、脈管に侵襲した未分化癌でexon5,7,8の遺伝子異常を認めた。腺癌、扁平上皮癌、脈管に侵襲した未分化癌のp53 exon5の遺伝子異常はすべて異なったパターンを呈したが、exonではすべて同一パターンの遺伝子異常であった。これまでの比較的大きな組織量を用いた方法では困難であった同一腫瘍組織内における遺伝子上のheterogeneityの検討、更には組織型との詳細な比較検討も可能となった。 膵臓においては、膵癌12例と膵ラ氏島腫瘍10例について検討した。ホルマリン固定パラフィン包埋組織の薄切切片から、腫瘍および正常組織を採取し、膵癌ではp53 exon5,6,7,8の領域、膵ラ氏島腫瘍ではK-ras exon1,2、p53 exon5,6,7,8の領域について解析した。膵癌では12例中9例'(75%)にp53の遺伝子変異を認めた。膵ラ氏島腫瘍では、10例中2例(20%)にK-rasの遺伝子変異を認め、10例中9例(90%)にp53の遺伝子変異を認めた。膵癌におけるp53の遺伝子変異はこれまでの報告(50-75%)と同様に比較的高頻度に認め、迅速、簡便な“cold-SSPP"法における検出感度の高さが証明された。膵ラ氏島腫瘍における癌関連遺伝子の変異についての報告は少なく、その関連は未だ明らかではない。今回の検討では高頻度にp53遺伝子の変異を認めており、p53遺伝子の膵ラ氏島腫瘍への関与が示唆された。 今後、direct sequenceによる塩基配列の決定を行うとともに、更に膵癌、膵ラ氏島腫瘍などの癌関連遺伝子との関連を追求していく所存である。
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