研究概要 |
乳癌根治手術時に得られた265例の乳癌組織をホモジネートし、超遠沈にてその上清を採取し、細胞質分画を得、以下の測定に用いた。組織型プラスミノーゲンアクチベータ-(t-PA)、ウロキナーゼ型のプラスミノーゲンアクチベータ-(u-PA)、プラスミノーゲンアクチベータ-インヒビター(PAI-1)はELISAのキットを用いてその抗原量を測定した。多変量解析は、Cox Hazard Modelを用い、無再発生存曲線はKaplan-Meier法によって、生在曲線の有意差検定はGeneralized Wilcoxon test,Log rank testを用いた。乳癌の再発の有無により多変量解析を用い各因子を比べると,組織学的リンパ節転移度が最も強い悪性度の指標であることが判明した。(p<0.001)ついでu-PA(p<0.005),t-PA(p<0.01),PAI-1(p<0.01)が並び,すべて有意差を示した.エストロゲンレセプターレベルは有意の差を示さなかった.u-PA,PAIは高値のものが、t-PAは低値のものが有意に予後不良で、それらは予後予測因子となり得ることが判明した。同様に無再発生存曲線の解析では、t-PAの低値のものu-PA,PAIの高値のものは有意に予後不良であった。t-PA高値例の3年無再発生存率は87%で、低値例は69%であった。u-PA低値例の3年無再発生存率は85%で、高値例では74%であった。PAIでは低値例の3年無再発生存率は91%で、高値例では80%と3因子すべて有意差が認められた。結論としては、線溶系を調節する酵素であるt-PA,u-PAおよびそのインヒビターであるPAIは乳癌組織中に存在し、t-PAの低値の症例u-PA,PAIの高値の症例では、有意に予後不良であった。t-PA,u-PA,PAIは乳癌の生物学的悪性度の新しい指標と成り得るを考えられた。またこれらの線溶系のパラメータを測定することにより、再発の可能性の高い患者を選別し有効に補助療法を施行することが可能となり,患者にとっても,医療費の面からも非常に有用であることが判明した.乳癌組織中の組織型プラスミノーゲンアクチベータ-,ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ-およびプラスミノーゲンアクチベータ-インヒビターをそれぞれに対する抗体を用いて免疫組織化学法にてその局在を検討する。u-PAおよびu-PAのレセプターに対する抗体を用いて免疫組織化学法にて、乳癌組織中の両者の局在を検討したところ、両者の量の多い乳癌は、そうでないものと比べて予後不良であった。
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