研究概要 |
現在臓器移植に用いられている免疫抑制剤は拒絶反応を十分制御できないばかりか、感染症や悪性腫瘍の発生など種々の合併症を生じる危険性をもっている。移植臓器に対してのみ特異的に免疫応答の低下、消失した状態は免疫寛容と呼ばれ、この状態が誘導できれば拒絶反応は起こりにくく、免疫抑制剤も中止、減量が可能となる。免疫寛容を生じさせる一法として、抗原の門脈内投与(門注)が知られているが、そのメカニズムはほとんど解明されていない。本研究では門注したドナー脾細胞の肝内残存率と免疫応答の指標としてのリンパ球混合培養反応(MLR)抑制について経時的に検討し、それらの相関をみた。また門注と似た投与経路として、経口トレランスが臓器移植に応用可能かについても研究した。 蛍光標識したドナー脾細胞を門注あるいは静注し、経時的に肝組織凍結切片を蛍光顕微鏡にて観察した。肝小葉の主として門脈域の類洞に蛍光陽性細胞を観察し、3,7日後には肝小葉に数個〜2,3個の陽性細胞を認め、門注の方が静注群よりも多く観察された。分離した肝非実質細胞をフローサイトメーターで定量的に解析すると、門注3日目で蛍光陽性細胞が非実質細胞中3.0%と静注0.9%より有意に多く、7日目では共に0.7%程度と減少した。MLRは門注3,7日で78、57%と有意に抑制され、静注は3日目のみ52%の抑制をみたのみであった。以上より投与したドナー細胞の肝内残存は門注3日目で有意に高く、残存率が高いほどMLRも抑制され、両者間に相関性のあることが示唆された。ドナー脾細胞の空腸内投与と非投与(Sham手術)について比較したところ、遅延型過敏反応の指標であるFoot pad反応とMLR共に非投与に比べ空腸内投与においてドナー特異的これらの抑制が観察された。またラット胃所性心移植においても生着日数で非投与9.9±1.7日に対し、空腸内投与18.7±7.3日に有意な生着延長効果を認めた。前期実験同様Gd投与によるこれらのドナー特異的免疫応答抑制は消失した。したがって臓器移植への経口トレランス誘導の可能性が示されたばかりでなく、経口トレランス誘導に関してもKupffer細胞が主たる役割を演じていることがわかった。
|