研究概要 |
急性腸間膜血管閉塞症の実験検討:動脈閉塞による急性虚血腸管壁の病理組織学的所見は既に詳細に検討されているが,静脈閉塞に基づく腸間虚血の病態は未だ解明されていない.本研究において静脈結紮群は粘膜上皮の変化のみならず,粘膜固有層と粘膜下層,特に後者のうっ血や出血が,早期より高度に認められた.腸間膜主幹動静脈の一過性遮断モデルでは,静脈遮断群の全身血圧変動は動脈遮断群に比し遮断中の変動が著明で,局所循環動態にとどまらず,全身循環動態においても静脈閉塞がより高度の障害を与えることが示唆された.腸管viability判定に関し静脈閉塞に関する報告はほとんどないが,本研究ではでは動脈,静脈閉塞ともに,LD値変動率と組織学的Gradeに有意の相関関係が認められたことより,腸管viability判定におけるLD法の有用性が示唆された.再灌流障害については,free redical scavenger投与による虚血障害の改善は認められなかった.腸管虚血においては他の実質臓器などと異なり,腸内細菌の関与や,局所・全身循環動態の変動が大きく,臨床的に問題となる虚血障害を起こす条件では,再灌流障害よりも虚血障害自体が問題であると推察され,今後の検討課題といえる.臨床的検討:上腸間動脈閉塞症(SMAO)は高齢者に多く動脈硬化による他臓器疾患合併が高率に認められたたが,上腸間膜静脈血栓症(SMVT)では特に若年者では凝固線溶系の詳細な検討が必要である.SMAOでは広範な壊死を生じ,手術死亡が高率であったが,血行再建を併施した3例はいずれも生存した.SMVTでは小腸を分節性に侵し,手術死亡は1例のみであったが,遠隔期の血栓症再発による死亡が2例に認められた.以上の臨床的検討から,治療成績向上のためには,SMAOでは積極的な血行再建と重点的な周術期管理,SMVTでは血栓症再発に対する対策が重要と考えられる.
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