研究概要 |
SD系雄性ラットを用い68%肝と45%膵を同時切除し、空腸吻合を行った肝膵同時切除モデル(HPx)を作成し、Control群、Hx群(肝切除)、Px群(膵切除)との比較検討を行った。検討項目は、(1)創傷治癒:吻合部抗張力の指標としてanastomotic bursting pressuer(ABP)、吻合部コラーゲン集積の指標としてヒドロキシプロリン(Hyp)量をアミノ酸分析計で測定した。代謝の指標として血清総蛋白、アルブミン値、血糖値を測定した。また、組織学的創傷治癒評価をおこなった。(2)肝蛋白合成:肝蛋白分画内への14C-Leucine取り込み量(Hepatic protein synthesis,HPS)を液体シンチレーションカウンターにて測定した。また肝DNA合成を免疫組織学的に検討した。 結果は、ABPは、HPx群において3日および7日目にControl群に比べ低下していた(p<0.001). 吻合部のHyp量は、7日目にControl群に比べHx,Px,HPx群で順に低下していた。また、血糖値に有意差は認めないものの、HPx群において血清蛋白値の低下を認めた。組織学的検討では、HPx群において術後1日目に吻合部におけるPMNを主とした急性炎症細胞浸潤の有意な低下を認めた。経口摂取量は2日目にControl群に比べHx,Px,Hpx群で有意(p<0.05)に低値であったが、1日および3日目以降は各群間に差は認めなかった。体重は各群間に明らかな差は認められなかったものの、HPx群では術後の血清蛋白値の回復が遅延した。HPSはHx群で2日目にピークを示す一方、HPx群においてはピークが3日目に遅延した。また、HPx群におけるBrdU labeling indexはHx群に比べ術後1日目に有意(p<0.05)に低下していた。以上の結果より、肝膵同時切除術では、腸管吻合部の創治癒機転の開始において重要な役割を果たす炎症反応が抑制され、さらに線維化やフィブリン網の安定化に不可欠な血清蛋白の低下という治癒阻害因子が加わることにより、一連の創傷治癒過程が障害されていることが示唆された。また、この血清蛋白低下の原因として肝蛋白合成の遅延が影響している可能性が推察された。以上の結果は、肝膵同時切除後に縫合不全をはじめとする合併症が多発する機序を理解する上での重要な知見と考えられた。
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