研究概要 |
本研究の目的は,消化器癌に対する根治手術の際に取り残される可能性のあるリンパ節転移に対し,ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)を用いた免疫化学療法を確立することにある。本療法は,根治性の向上により,根治術後の生存率を高められるのみならず,術後のquality of lifeの高い縮少手術の適応を広げることも可能となる。 1)動物実験として,CH3/HeSIC系雄性マウス(5週齢)の左後肢足背皮下に腹水肝癌MH134の細胞浮遊液(5*105cells/mouse)を移植し,同側の膝窩リンパ節および腰部リンパ節の転移モデルを作製した。転移が成立したマウスの膝窩リンパ節内に,リンパ指向性の高い微粒子活性炭CH40のとマイトマイシンCおよびピシバニール(OK-432)を混和した溶液(MMC-CH-OK)を同側の膝窩リンパ節に注入した。注入6日後に犠牲死せしめ腰部リンパ節の重量を測定したところMMC-CH-OK投与群は,MMC-CHなど他の治療群と比べて有意にリンパ節重量が軽く有効と判定され,組織学的検索でもMMC-CH-OK投与群は著明な効果を認めた。 2)切除を行った1602例の胃癌症例のデータをパーソナルコンピューターを用いて多変量解析を行い,深達度が粘膜下層から固有筋層で,根治可能例が本療法の適応であるとの結論を得た。 3)動物実験の結果とパーソナルコンピューターを用いた胃癌臨床例の検討結果をもとにして,術前診断および術中診断で,深達度が粘膜下層から固有筋層で,根治可能例と診断した症例に対してrandomizationによる比較研究を行った。術中胃周囲のリンパ節にMMC-CH-OKを注入する群と微粒子活性炭CH40のみを注入する群の比較研究を行った。現在まで135例が登録された。このうち,MMC-CH-OK群67例,CH群68例であった。現在までの経過観察で,MMC-CH-OK投与に伴う副作用はなく,術後合併症も両群間に差を認めなかった。また,術後の生存期間は有意差はないものの,MMC-CH-OK群が高い傾向を認め,今後も観察を続けることにより,有意に生存期間が延長することが期待される。
|