研究概要 |
ヌードマウス脾内注射にて高率に肝転移をきたすSW1990細胞は,転移を示さないPANC-1細胞の浸潤,遊走能を亢進させる因子を産生していることが判明しており,この因子(PDMF:pancreatic cancer-derived motility factor)の単離,精製と他因子との関連の検討した.PDMFは,HPLC,gel-filtrationによる検討から分子量約40kDaのヘパリン非結合性蛋白であり,細胞増殖には影響を示さなかった.膵癌細胞の遊走性は,IL-1,IL-6,TNF,HGF,TGF,EGF,IFNなどのサイトカインにても増強したが,SW1990からはIL-6,TGF-βの産生が検出されたものの,これらの中和抗体添加にてもPDMFの効果は減弱を示さず,PDMFは新しい遊走刺激因子であると推測される.今後さらなる精製とモノクローナル抗体作製を試みたい. 次に,細胞外マトリックス分解に関わるプロテアーゼの中でu-PAに関し検討した.高転移性のSW1990と低転移性のPANC-1の培養上清中へのtotal u-PA産生は,ELISAでの検討で差がみられなかったが.そのインヒビターであるPAI-1は,SW1990において有意に低下していた.その結果,SW1990培養上清中のu-PA活性はPANC-1に比し有意に亢進していた.そこでセリンプロテアーゼインヒビターの一種であるメシル酸ガベキサートによるSW1990の浸潤,転移抑制効果を検討した結果,in vitroのu-PA活性ならびに浸潤能は有意に抑制され,さらにヌードマウスを用いたin vivo肝転移モデルでも転移の抑制傾向がみられ,新しい転移抑制剤として応用できる可能性が示唆された.
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