研究概要 |
平成6年度はTNF-αによる侵襲反応が中枢神経系を介して起こるか否かを検討する目的で脳室内にTNF-α(600ng)を脳室内あるいは経静脈的に投与して検討した.雄のSDラット(255g-250g)を用いてネンブタール麻酔下に脳室内と頚静脈にカテーテルを挿入し,その後5日間待って侵襲から回復させた後に,各治療を行った.脳室内に生食水あるいはTNF,静脈内にTNFを投与し,脳室内にTNFを投与した群では脳室内に生食水および静脈内にTNFを投与した群や脳室内と静脈内に生食水を投与した群に比べて筋肉の蛋白合成の低下,全身蛋白の崩壊や糖新生の亢進を認めた.このことから,サイトカインが引き起こす低栄養状態(蛋白の喪失)には中枢神経系を介する経路があることが示唆された. 平成7年度にはサイトカインが中枢神経系を介して引き起こす低栄養状態がフェンタニルの前投与によって抑制されるか否かを検討した.平成6年度と同じ動物モデルを用いて,フェンタニル(50μg/kg)を投与すると,脳室内TNF投与によって認められた糖,蛋白代謝動態の変動が抑制されたいた.このことから,サイトカインが中枢神経系を介する経路にはopioid receptorが関与していることが示唆された. 平成8年度は脳室内にTNFを静脈内にフェンタニルを投与した時にみられるストレスホルモンの変動および脳内のモルヒネ濃度の変動について検討した.TNF-αを脳室内に投与すると,血清コルチコステロン,エピネフリン,ノルエピネフリンの濃度および脳内のモルヒネ濃度が投与後30分後に増加していた.同量のTNFを静脈内に投与してもストレスホルモンの変動および脳内モルヒネの濃度の変動は認められなかったことから,TNFなどのサイトカインが視床下部,下垂体を介して侵襲反応を引き起こす経路があること,およびこの侵襲反応伝達経路には内因性の脳内モルヒネが関与していることが示唆された.TNF投与前にフェンタニルを投与するとストレスホルモンの産生は完全にブロックされ,脳内のモルヒネ濃度の産生も制御されていた.以上のことから,フェンタニルの侵襲反応抑制機序としてフェンタニルのopioidの前投与によって内因性のopioidであるモルヒネの産性が抑制されたことが考えられた.今後,解明すべき点としては,モルヒネと侵襲反応について侵襲時の疼痛緩和作用のみならず,外科侵襲期にみられる栄養状態の低下との関連についても検討する必要がある.
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