研究概要 |
胎仔CNS系組織の成熟ラット脊髄内移植モデルにおける後根神経の宿主脊髄への再生を証明するために,成熟S-Dラット腰髄膨大部に左背側1/4切除腔を作成し,予め切断した後根神経を切除腔底に併置し,胎仔脊髄(E14),海馬(E16),後頭葉(E18)組織を導入した移植モデルを開発した.胎仔CNS系組織は成熟ラット脊髄内で生存・成長した.移植3カ月以降に,再生後根神経のマーカーであるcalcitonin gene-related peptide(CGRP)に対する免疫染色を行って再生後根神経を標識した.CGRP標識線維は全宿主脊髄内に同定されたが,胎仔脊髄組織(ESC)の移植ラットにおいて,より旺盛で緻密な神経束を形成した.一部の再生後根神経は宿主脊髄前角のmotoneuron群に達した.宿主脊髄への後根神経の再生程度の定量的解析の結果,CGRP標識後根神経によって占められる面積分画と分布域は脊髄>海馬>後頭葉>コントロール(p>0.05)の順位で,ESCは損傷された脊髄反射弓の再構築を促進する至適な環境を提供すると推定された.また,電顕レベルで,CGRP標識の再生後根神経の軸索終末が宿主脊髄内に同定され,一部の終末は宿主脊髄内神経細胞とシナプス結合を形成した.後根神経の再生とシナプス形成を促すメカニズムとして,ESCから放出される神経成長栄養因子(NTF)の関与が推測される.NTFのmediumとして徐放効果が期待できるフィブリン糊を使用し,neurotorphin-3(NT-3)の効果を検証した.上記実験モデルを応用し,NT-3含有のフィブリン糊球を吸引腔に移植し,1カ月で,CGRP標識の再生後根神経は宿主脊髄に再生・伸展し,1部の線維は宿主脊髄前角のmotoneuron群に達した.したがって,NT-3はCGRPで標識された後根神経の宿主脊髄への再生を促進することが証明された.
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