研究概要 |
ラット中大脳動脈閉塞モデルでは,患者脳での梗塞巣とともに軸策障害によるマイネルト核Cholineacetyltransferase陽性ニューロンの減少や視床障害がみられる.そして,虚血後4週目までモリス水迷路学習にて,空間認知能の障害が持続することが明らかになった. 虚血脳に対して,神経栄養因子がどのような作用を有するか研究することは臨床例における脳血管性痴呆の治療を考えるに当たり重要である. そこで本モデルに対して毛様体神経栄養因子(Ciliary Neurotrophic Factor:CNTF)を脳室内に持続注入(虚血直後より28日目迄)することにより,モリス水迷路学習による空間認知障害及び組織学的所見がどのように変化するか検討した. その結果,(1)虚血後2及び4週目に行った水迷路学習によるプラットホームへの到達時間は,CNTF投与群ではvehicleを脳室内に注入した対照群に比して有意に短縮した.(2)行動実験終了後(虚血後4週)の大脳皮質の梗塞範囲は,CNTF投与群では対照群に比して有意に縮小した.(3)患者視床の萎縮率は,CNTF投与群では対照群に比して有意に減少した.(4)また患者視床のventroposterior核の生存ニューロン数は,CNTF投与群では対照群に比して有意に多かった.(5)これらの空間認知能障害及び組織学的障害の程度は,CNTF投与量に依存して改善された. したがって,虚血脳に対するCNTFのニューロン保護作用により,梗塞面積の縮小と視床障害が軽減され,空間認知能の改善が得られることが示された. 今後は,他の神経保護作用を有する物質を投与し,その効果を行動実験及び組織学的に検討していく予定である.
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