研究概要 |
ヒト脳腫瘍血管における血液脳関門関連蛋白及び酵素であるP糖蛋白とγ-GTPの発現を免疫・酵素組織化学的に検討した.その結果1.多剤耐性遺伝子mdr産物であるP糖蛋白は正常脳の毛細血管に発現しており、さらに神経膠腫においても腫瘍血管の内皮細胞に発現していたことから、脳腫瘍における化学療法を考える上で新たな克服すべき問題点があることが判明した.2. γ-GTPの発現もP糖蛋白と同様の結果を示し、神経膠腫では血液脳関門の機能が保たれている場合が多いことが明らかとなり、化学療法に対して抵抗性を示す一因と考えられた.3. 一方、髄膜腫・聴神経鞘腫・転移性能腫瘍などの血管にはこれらの蛋白は発現しておらず、神経膠細胞からの因子が関与していると考えられた. そこで腫瘍血管新生をきたす成長因子(bFGF, TGF-α, -β, VEGF)の発現につき、各種脳腫瘍組織手術標本を用いて遺伝子レベルで検討した.その結果、(1)これらの成長因子の内、VEGFの発現のみが神経膠腫と髄膜腫において、腫瘍組織における血管数と統計的有為さをもって関連していた.(2)他の血管成長因子も発現されており、血液脳関門の機能に関する神経膠腫細胞由来の特異的な因子はいまだ明らかではない. つぎに、ラット中大脳動脈閉塞モデルを用いて、梗塞巣、周辺脳組織内の血管形成とP糖蛋白とγ-GTPの発現、脳浮腫の形成過程を計時的に検討した.その結果、(1)梗塞後3日目にP糖蛋白発現血管は消失し、脳浮腫がピークに達した.(2)同時期にP糖蛋白未発現の新生血管が現れ、5〜8日目にかけて反応性膠細胞の出現と合わせて新生血管の成熟が起こりP糖蛋白を発現した.(3) γ-GTPの発現もP糖蛋白の発現と同様の結果を示し、あらためて血液脳関門の形成には血液脳関門関連蛋白及び酵素であるP糖蛋白とγ-GTPの発現と神経膠細胞からの因子が関与していると考えられた.(4) VEGF発現の経時的変化は、VEGF産生細胞が異なること、脳浮腫の形成には少なくとも2段階が存在し、サイトカイン・血管成長因子の発現・その受容体の発現が経時的に関与していることが明らかとなった.
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