研究概要 |
神経根障害の病態生理を機能的側面から検討するため、成犬腰髄より採取した神経節付き後根を用いて人工脳脊髄液中に維持するin vitro標本を作成し,異所性発火の発現および抑制因子を解析した。この神経根中枢端を細分した後、8本の白金電極により神経発射活動を多チャンネル同時導出した。機械的圧迫刺激による異所性発火闘値は神経節部位できわめて低く,低酸素負荷では神経節由来の発火が誘発され、機械的刺激に対する反応闘値も低下することを確認した。一方、化学的刺激物質として正常髄核、GABA,コンドロイチン硫酸、サブスタンス-P,プロスタグランヂンE2などを比較的高濃度で用いた場合は単独で異所性発火を誘発できることが確認された。シリコンチューブを神経根に装着し、6週間飼育した慢性動物から得た神経根標本を用いて同様の検索を行うと、一般に低酸素負荷や化学刺激に対する反応性は増強する傾向を示した。特に正常標本では反応を認めないノルアドレナリンに対する反応が陽性化した。この慢性障害神経根では神経インパルスの伝導形態にも変化が生じ、知覚神経節部分でクロストークが生ずる傍証を得た。一方、化学刺激により誘発された異所性発火に対して、ステロイドホルモンは抑制的に作用することが示された。蛍光標識トレーサーを用いた軸索流を評価については,in vitro条件における標本の生存時間が十分ではなく,障害程度の数量化についてはin vivoモデルを用いる解析の方が優れていると判断された。 本研究のから神経根障害における疼痛などの異常感覚あるいは間歇性跛行の病態と治療の意義を理解する上で重要な知見が得られた。さらに,本研究モデルでヒトの病態をシミュレートするためには,ヒト変性髄核および神経根周辺組織について綿密な生化学環境動態の観測が望まれる。また神経根除圧術などの術中において異所性発火を計測することが今後の重要課題である。
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