研究概要 |
1.Evans blue-albumin (EBA)をトレーサーとした検討:対照では馬尾集合を認めず、馬尾に伴行する血管および軸索間の毛細血管ともにEBAの浸出は観察されなかった。これに対して椎弓切除により惹起される馬尾集合は術後6時間より出現した。それには、馬尾の伴行血管、軸索間毛細血管からのEBAの軽度の浸出を認めた。馬尾集合は術後1日で全体におよび、以後自然回復の傾向を示し、術後3週で部分的な集合となった。これに対し、EBA浸出は術後1日で最も著名となり、軸索間間質部、癒着した馬尾間にEBAの存在が明らかであった。このEBAの浸出は術後3週目にほぼ消褪した。術後1日ではこれらの馬尾血管透過性亢進は、椎弓切除部上下の馬尾にも及び、その程度は椎弓切除部から離れるに従い軽度な傾向を認めた。この血管透過性亢進は椎弓切除部で最も長期間観察され、遠い部分から消褪した。以上から、椎弓切除部で血管透過性の亢進を伴い、血管透過性の亢進は椎弓切除部位に留まらず極めて広範に亘ること、これらが馬尾集合癒着の推移と呼応することを観察した。 2.Fluorescein isothiocyanate-Dextran (FTTC-Dextran)をトレーサーとした検討:FTTC-Dextran (Mw :20,000,70,000,150,000)の投与後、コントロール群においても馬尾血管での透過が認められ、分子量の増大につれて透過性が低下する傾向を示し、正常状態ではEBAが漏出しなかった。このため分子量のみならず荷電の状態が浸出を左右する一つの因子であると推定された。Dextranの透過性は椎弓切除群にてより高度となる傾向を示し、密着帯の開大などの形態的変化が関与していると考えられた。 3.ランタンイオンをトレーサーとした超微形態の検討:椎弓切除後のラットでは、密着帯の軽度開大、トレーサーが密着帯を通過しており、血管内皮細胞の飮小胞への取り込みを認めた。手術侵襲に引き続く炎症過程は、馬尾血管透過性から見ると予想外に広範に生じる。馬尾集合癒着にひき続き発生する、癒着性くも膜炎の発生機序を示唆する所見と考えられた。 4.椎弓切除部カオリン負荷ラットにおけるメチルグルコースの移行:コントロール群では脊髄、坐骨神経において他の組織よりも血液の測定値に対する比(測定値比)が高い値を示した。一方、馬尾、傍脊柱筋では低い値を示し、血行からの栄養供給は脊髄や末梢神経に比べ馬尾では少ないものと考えられた。コントロール群と比較しカオリン群では馬尾の測定値比が増大している傾向にあった。カオリン群がコントロール群に対し、1.90倍(コントロール群平均13.8±0.7%、カオリン群平均26.3±23.8%)であった。一方脊髄、筋肉、坐骨神経、脊髄液においてはコントロール群、カオリン群ともに同様の値を示した。以上よりカオリン群では硬膜外炎症反応と呼応して血管透過性が亢進し、より多くの糖が血管外へ移行しているか、もしくは脳脊髄液からの糖移行障害が存在し、血行性経路からの代償作用が働いていると推察された。
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