虚血時の興奮性神経伝達物質の過剰放出、特にグルタメイトの上昇が、遅発性神経細胞壊死などのその後の神経障害の原因になるとする考え方がある。我々は先に、ラットを用いて5%酸素吸入による低酸素負荷後30分で、ミトコンドリアを中心としてカルシウムの沈澱が見られる事を見い出した。そしてこの現象は、低酸素負荷中や直後より、むしろ再酸素化の時点で観察される。我々は今回、マイクロダイアリシス法と蛍光検出法を組み合わせ、脳の海馬領域におけるグルタメイト含量の変化を追跡してみた。すると、グルタメイトはカルシウムの挙動とは異なり、より早い時点すなわち低酸素中より急激に増加してくる。そして、20分の低酸素負荷時間の最後の時点で最大値を示す。その後の再潅流の時点では速やかに減少する。この、カルシウム上昇とグルタメイト上昇との間の時間的差異は、低酸素により先ずグルタメイトの上昇が起こり、グルタメイトにより活性化されたカルシウムチャネルを介して、カルシウムの流入上昇が虚血後も持続的に起こると言う考えを支持する。この事は、ミトコンドリアにおけるカルシウム蓄積が細胞質のカルシウム上昇よりは遅れると言う点を考慮しても、否定される物ではあい。なお最近、虚血時のカルシウムは2相性と報告した論文があったが、これも我々の結果を支持する。つまり、低酸素時には一過性のカルシウム上昇と、その後の持続性のカルシウム上昇があり障害を増幅せしめていると考えられる。
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