研究概要 |
ラットを用い,慢性疼痛に影響を与えると考えられる薬剤を,あらかじめ手術により留置したクモ膜下腔カテーテルよりクモ膜下腔に投与し、各種疼痛検査を用いてその影響を調べた.また炎症起因物質を用いて関節炎を起こさせ,疼痛閾値に変化が起こるかどうかについても実験を行った.疼痛検査は,ホットプレートテスト,ポ-プレッシャーテスト,フォルマリンテスト,アロディニアテストとした.1)炎症関連物質であるプロスタフランデインE_1および細胞内で変化し一酸化窒素を放出するニトログリセリンを脊髄へ投与し,痛覚過敏が起こるかどうかについてフォルマリンテストを用いて調べた.両薬剤は用量依存性の痛覚過敏を生じ,その機序として脊髄のNMDA受容体活性化と,一酸化窒素が関与していることがわかった.2)実験的に尾骨関節にカラゲニンとカオリンを注射し炎症を作成したラットでは後肢の圧に対する痛覚過敏が生じることがわかった.この痛覚過敏はクモ膜下腔に投与されたインターロインキ1βにより増強した.3)Mg^<2+>はNMDA受容体の活性化を抑制することがIn vitro実験で報告されている.この結果をin vivoに応用し,Mg2_+を脊髄へ直接投与したところ鎮痛作用が慢性疼痛を指標としたフォルマリンテストでみられた.これらの実験結果より,脊髄に投与されたいくつかの薬剤によって生じる痛覚過敏には脊髄におけるNMDA受容体と,この受容体の活性化によって2次ニューロンより産生される一酸化窒素が疼痛増悪において重要な役割を果たしていることがわかった.また,Mg^<2+>はクモ膜下腔に投与することでNMDA受容体活性を抑制し,副作用のない慢性疼痛の治療となりうることが示唆された.炎症による痛覚過敏には脊髄におけるインターロイキンが関与している可能性が示唆された.疼痛増悪および軽減機序の解明は慢性疼痛の新たな治療法開発の一助になると考えられる.
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