研究概要 |
臨床的に経験した前立腺癌,前立腺肥大症,および剖検時に得られた正常前立腺症例について,ガストリン放出ペプチド(GRP)C末端特異血清R-6902を用い,RIA法にて前立腺組織内のGRP濃度を測定した.その結果,疾患を問わず大部分の症例で前立腺組織内にGRPが検出された.症例数が少ないため,疾患別,臨床的stage,分化度,新鮮例あるいは内分泌抵抗性となった再燃癌との関連性に関する検討はいまだ不十分であるが,内分泌抵抗性となった再燃癌症例で前立腺組織内GRP濃度が極めて高値を示した症例がみられた.このことは,内分泌抵抗性再燃前立腺癌細胞自体がGRPを産生分泌し,前立腺癌の自己分泌増殖因子として作用している可能性があることを示していると考えられた.今後背景因子との関連性をさらに検討する予定である. GRPの血中濃度に関しては,現在我々が用いている測定系では大部分の症例で感度以下であり,検討は困難であった.GRPの前駆体であるproGRPはGRPの約400倍の血中濃度を示し,GRPに比して安定であると報告されており,今後proGRPの測定系を用いて,腫瘍マーカーとしての意義を検討する予定である。 免疫組織学的検討では,今まで経験したヒト前立腺癌組織標本について,ABC法により免疫染色を行い,癌組織内のGRPの局在を調べた.その結果,一部の内分泌抵抗性再燃前立腺癌標本において,癌細胞の細胞質に,顆粒状褐色調に染色される陽性細胞を認め,前立腺癌自体がGRPを分泌している可能性が示唆された.しかし,GRP免疫染色の手技はいまだ十分確立されておらず,抗体の希釈倍率,反応時間等に改善の余地があると思われた. 今後組織内濃度,血中濃度,免疫組織学的検討について症例数をさらに増やし,種々の背景因子を検討して解析を加える予定である。
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