研究概要 |
DunningR3327ラット前立腺癌の高率に肺転移を示すサブラインにヒト正常染色体を移入し、宿主細胞の性状の変化をみることにより前立腺癌に対する転移抑制遺伝子を検索しようと試みている。これはヒト臨床材料において異型接合性を示す対立遺伝子の欠失(LOH)を検索することにより癌遺伝子などを同定する、従来から行われている手法とは異なった方面からの検索である。平成5年度までにヒト11番染色体の11p13-p11.2にはこのラット前立腺癌に対する転移抑制遺伝子が存在することを示した。平成6年度の成果により、ヒト8,10,17番染色体についても、このラット前立腺癌に対する転移抑制遺伝子が存在することが判明した。さらに、8番染色体については放射線照射を行い人工的に染色体欠失を生じさせ、これをラット前立腺癌細胞に移入したり、また10番染色体については自然に欠失が生じていたことなどにより、これらの染色体上に存在する転移抑制遺伝子の位置を限局することができた。前者については8p23-q12、後者については10cen-q22に存在することが示唆された。この実験モデルにおける転移抑制の機序をヒト8番染色体について検討した。ヒト8番染色体を移入したラット前立腺癌細胞ではマトリジェルに対する浸潤能が有意に低下しており、ヒト8番染色体による転移抑制は癌細胞の浸潤能を抑制することがその原因のひとつと考えられた。ヒト8,10番染色体はヒト前立腺癌においても高率にLOHが認められており、今後さらに検討していく予定である。
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