研究概要 |
目的:ヒト前立腺における線維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor family,FGFs)およびその受容体(FGF receptor family,FGFRs)の役割を明らかにすることを目的とした. 方法:ヒト前立腺肥大組織から上皮細胞と間質細胞をそれぞれ分離,培養し,FGFsはFGF1,FGF2,FGF7の,FGFRsはFGFR1,FGFR2(IIIb),FGFR2(IIIc)の発現をreverse transcription polymerase chain(RT-PCR)法で検討した。ヒト前立腺癌由来細胞株でアンドロゲン依存性で転移能の無いLNCaPとアンドロゲン非依存性で転移能が強いPC3で同様に検討した。さらに前立腺肥大症組織および前立腺癌組織におけるFGF1,FGF2,FGFR1の発現を免疫組織学的に検討した。 結果:RT-PCRの成績では前立腺肥大症の初代培養上皮細胞は90%の純度で得られ,FGF1,FGF2,FGFR1,FGFR2(IIIb)が発現,一方,初代培養間質細胞は100%の純度で得られ,FGF1,FGF2,FGF7,FGFR1の発現が認められた。LNCaPではFGF1,FGFR1,FGFR2(IIIb)が,PC3ではFGF1,FGF2,FGFR1,FGFR2(IIIc)が発現していた。免疫組織学的成績では前立腺肥大症の上皮細胞にFGF1,間質細胞にFGF2の染色性を有し,中等度分化型前立腺癌ではFGF1,FGF2,FGFR1のいずれも染色性を認めた。 結論:以上の成績から,前立腺肥大症においては上皮細胞と間質細胞でFGFsおよびFGFRsの発現が異なり,これらを介する上皮間質相互作用による細胞増殖機構の存在が示唆された。一方,前立腺癌においてはその悪性化とともに上皮間質相互作用から逸脱し,自律性増殖機構の獲得が示唆された。
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