研究概要 |
フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)癌抑制遺伝子の体細胞性異常を散発性腎癌患者47症例についてPCR-SSCP,シークエンス法にて解析した。その結果47例中22例の腎癌にこの遺伝子の変異を確認した。変異の位置は遺伝子の酸性リピート領域より3'側に集中しておりVHL患者に見つかったものとほぼ同様な傾向であった。VHL遺伝子の変異と腎腫瘍の組織型との関係ではThoenesの組織分類による淡明細胞型の腎癌にのみこの遺伝子の変異がみられた。遺伝子の変異様式の検討では,腎細胞癌に見つかった体細胞性変異の80%以上はVHL蛋白が途中から切断,欠損しまうような欠失あるいは挿入変異であり,アミノ酸1ケの置換が起こるミスセンス変異は少なかった。一方VHL患者に見られる遺伝的変異ではミスセンス変異が50%以上を占め,両者に変異様式の違いがあることがわかった。またVHL遺伝子のヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity : LOH)は,淡明細胞型腎癌の80%以上にみられた。これらの遺伝子変異,LOHは腫瘍の悪性度(grade),進行度(stage)にかかわりなく検出された。以上の結果よりVHL遺伝子は散発性の腎細胞癌,特にその中で75〜80%を占める淡明細胞型の腎癌における主要な癌抑制遺伝子であると考えられる。一方他の組織型の腎癌(色素好性型,色素嫌性型,ベリニ-管癌など)ではこの遺伝子の異常は全く認められなかったことから,その発生には全く別の機序いいかえれば別の原因遺伝子が関与しているものと考えられた。さらに腎細胞癌以外に散発性の中枢神経系の血管芽腫においても同様なVHL遺伝子異常がみられ,この腫瘍の発症にもこの遺伝子が深く関与しているものと考えられた。これらの遺伝子解析でえられたデータは今後診断にも応用可能と考えらる。
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