研究概要 |
動物実験では、肉眼的に生理食塩水の膀胱内注入はいずれの時期においても膀胱腫瘍、前癌病変に対してプロモーション作用を示した。病理組織学的にはBCG早期(予防的)投与群において膀胱癌の発生率、個数ともに生理食塩水早期投与群よりも低値を示した。以上より、BCG膀胱内注入療法はラットでは予防的な目的では有効であると思われた。一方生理食塩水の膀胱内注入は膀胱発癌をプロモートする事が再確認され、BCGの溶解液として一般に使用されている生理食塩水の妥当性について検討の余地がある事が示唆された。 臨床的には、BCG膀胱内注入療法を施行した表在性膀胱癌患者14名につき、ras,pb3の突然変異をチェック、さらに、可能な限りLOHの検索を行った。その結果1例にp53の突然変異が認められた。また、p53でLOHの検索が可能であった7例中2例、RBで5例中1例にLOHを認めた。その後3例再発したが、1例のみにRBのLOHが認められ、特に臨床経過、病理組織像との関連は認められなかった。さらに表在性膀胱癌患者23名のp16遺伝子の突然変異の有無、発現を検索した。その結果、いずれの膀胱癌患者においてもp16に突然変異は認められなかった。しかし、7例で明らかな発現低下が認められ、転写レベルでの発現抑制が膀胱癌に関与していることが示唆された。 また、BCG膀胱内注入療法例中再発した19例に、p53,PCNA,bc1-2の抗体を用いて免疫組織化学染色を行い、非再発例と比較検討を行った。その結果、p53陽性例は再発例、非再発例ともに同様の傾向であり、PCNA,bc1-2陽性例は両者共に再発例に陽性例が少ない傾向であった。またこれら再発例の治療前後での共通陽性例はp53で6例存在したが、PCNA,bc1-2が各々2例ずつのみであった。以上より、BCG感受性腫瘍と抵抗性腫瘍との間にPCNA,bc1-2発現レベルに違いがある事が示唆された。
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