研究概要 |
インターセックス患者(尿道下裂を伴うXX男性3名,真性半陰陽1名,混合型生殖腺不全症3名,男子小子宮を伴った尿道下裂10名,Reinfenstein症候群5名,精巣性女性化症候群4名)の外性器の培養皮膚線維芽細胞を用いこれらの患者のAR(andorogen receptor)が温度不安定性の異常をもつことを証明した.現在これらの症例の内,Reinfenstein症候群では兄弟,従兄弟例,両家系の母親,祖母にExon D,codon 709,GがAに点突然変異を引き起こしglutamineがlysineにアミノ酸置換を起こしていた.lysineはglutamineに比較して親水性が高くこれが本症例における温度不安定性の原因と考えられた.また他のReinfenstein症候群の1例ではExon G,Codon826のTからAに点突然変異が認められphenylalanineからtyrosineへのアミノ酸置換が生じていた.このアミノ酸置換も疎水性から親水性への置換であり現時点ではアミノ酸の疎水性から親水性への置換がReinfenstein症候群におけるARの温度不安定性の原因と推察している.混合型生殖腺不全症3名の内1名もAR遺伝子のエクソンB,C,D,E,F,G,Hの配列を決定し,Exon B,Codon539のGがA(GlycineからArginineへのアミノ酸置換)に点突然変異を起こしていた.Exon BはDNA結合領域であるためposttranscriptional processingに障害があると考えられる.全例のAR遺伝子解析終了後,上記インターセックス患者外性器の皮膚線維芽細胞のAR遺伝子解析を行なう.これによりARの温度不安性をもたらす遺伝子を同定する.これまでの実験結果からインターセックス患者での外性器の異常はARレベルの異常が関与していることは明確である.阪神大震災のために計画が大幅に遅れたが現時点では上記の症例の塩基配列の決定は進行しつつあるので,近い将来インターセックス患者の新生児期に遺伝子工学的手法を用いて患者のAR遺伝子に質的異常(温度不安定性)を起こす変異を確実に診断し,患児の両親の同意(informed consent)を得た後,早期(生後数カ月以内)に大量のアンドロゲンを投与し,将来起こる思春期における外性器発達の基礎作りをする可能性を探る.
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