研究概要 |
化学的架橋剤dithiobis(succinimidylpropionate)(DSP),銅イオン,亜鉛イオンの処理によりエストゲンレセプター(ER)のステロイド結合にどのような影響を及ぼすかについて検討した. 1.DNA結合性ERの調整段階において,従来必要とされていたリガンド(ホルモン)が存在しない状態でもERはtransformされた.さらに,DSP処理したERを[^3H]tamoxifen aziridineでラベルし,還元剤を用いない方法でSDS-PAGEを施行し解析したところ,分子量は134kDaであり二量体を形成していることが判明した. 2.DSP処理した二量体DNA結合性ERのエストロゲン結合に対する特性を検討するためにequilibrium binding assayを施行し,Scatchard及びHillの方法で解析したところ,ER濃度1nM以上ではHill係数が1.3以上とpositive cooperativityを示していたが,DSP処理後のHill係数は1.07と有意に(p<0.001)positive cooperativityは消失していた. 3.DSP処理後と同様の結果は100μMの銅イオンを添加した場合にも認められたが,亜鉛イオン添加の際には影響を及ぼさなかった. 以上の結果より,DSP処理による化学的架橋により共有的に結合した二量体DNA結合性ERは,低濃度のホルモン存在下においても高親和性の状態で安定していることが明らかとなった.また,化学的架橋および銅イオンによって処理されたERではpositive cooperativityが消失していたことより,銅イオンはERとステロイドとの結合の際にみられるpositive cooperativityの調節に関与する因子のひとつであることが示唆された.
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