研究概要 |
妊孕現象は母体にとって半同種移植片の関係にある胎児が母体の免疫学的監視機構を免れて分化・発育する現象と考えることができる。アロに対する免疫応答を考える上で最も重要な分子は主要組織適合抗原(MHC)であるが,胎盤絨毛にはヒトのMHCであるヒト白血球抗原(HLA)の発現は他の細胞と異なる発現を示す。HLAクラスI抗原は胎盤絨毛を構成するvillous trophoblastには,その発現は認められず,母体の子宮脱落膜に接する絨毛外に存在する絨毛細胞にはHLAクラスI抗原の発現が免疫組織染色によって確認されている。著者らはHLAクラスI抗原の発現を絨毛由来細胞株を用いてHLAクラスI抗原遺伝子のmRNA発現をノーザンブロティングで解析すると,古典的HLAクラスI抗原を発現する株と非古典的HLAクラスI抗原(HLA-G)を発現する株に分類できた。これらの株を用いて,核蛋白を抽出し,古典的HLAクラスI抗原遺伝子のプロモーター領域との結合性をゲル移動度シフト法によって解析した。その結果古典的HLAクラスI抗原を発現する細胞株にはHLAクラスI抗原遺伝子上流に保存される。エンハンサーAと呼ばれる特異的なシスエレメントに結合する核蛋白の存在を確認し,この蛋白はインターフェロンγによって発現の増強をみた(Am J Reprod Immunol)。核蛋白とエンハンサーAの複合体はNF-kB p50蛋白の抗体によって認識された。一方,HLA-Gを発現する細胞株,BeWoにはエンハンンサーA領域に結合する蛋白は存在せず,HLA-G遺伝子上流域の塩基配列特異的な部位に結合するNF-kB p50蛋白と異なる蛋白の存在を確認し,現在この蛋白の精製を試行している段階である。この結果は,現在学術誌に投稿中である。流産絨毛におけるHLA-G発現については,遺伝子インプリンティングについて解析し,HLA-G遺伝子はインプリントされていない事実を発見し,その結果を学術誌に現在投稿中である。
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