研究概要 |
ヒト卵管上皮細胞培養と癌遺伝子導入を試みたものの,ヒト上皮細胞の不死化は困難であり,いのまところ株化には成功していない.そこで,本研究では卵管細胞からのアプローチとともに,胚細胞における増殖因子の作用について検討した.その結果,basic fibroblast growth factor (bFGF)がマウス着床前初期胚のRNAおよび蛋白合成を促進することを初めて明らかにした.また,RT-PCRを用いてマウス初期胚と子宮内膜細胞におけるbFGFおよびFGF受容体1 (FGFR1)遺伝子の発現を検討した.初期胚自身はbFGFを発現していないが,FGFR1遺伝子を発現し,子宮内膜はbFGF遺伝子を発現していることを見いだした.従って,胚に発現するFGFR1が重要な役割を担うことが示唆された.そこで, FGFR1遺伝子の発現制御機構を知るためにFGFR1を発現しているマウスNIH3T3細胞,乳癌細胞株SC3を用いてFGFR1遺伝子上流領域のゲノム構造とpromoter活性について解析した.その結果, FGFR1遺伝子は14kbの長い第一イントロンを持つこと,FGFR1の亜分子種はすべてalternative splicingによって作成されること, FGFR1のmRNAは5'領域にもう一つのopen reading frameを持つことが明らかとなった. basal promoter活性は5'上流領域の-89から-43に同定された.さらに, DNase I protection assayならびにgel ahift assayによって, promoter活性と核蛋白の結合は-62から-42の領域に限定された. 以上の検討から,初期胚発生は胚に存在するFGF受容体を介してbFGFによってパラクリンコントロールを受けること,FGFR1遺伝子はそのユニークなゲノム構造から特異な転写制御を受け,基本転写は未知の核蛋白によってコントロールされていることが判明した.今後は,初期胚自身におけるFGFR1遺伝子の発現動態および制御についての検討が必要である.
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