研究概要 |
子宮体癌では正常体内膜に比較してフコシル化糖鎖が高率に発現している。特に、末端にフコ--ス(Fuc)残基を有するLewis b型糖鎖(Le^b)を主として認識するモノクローナル抗体MSN-1は体癌組織と高率に反応する。また、細胞表面のフコシル化糖鎖は血管内皮に存在するセレクチン等との間に相互作用があるところから、癌の転移能・接着能といった予後因子と密接に関連していることが示唆されている。こうしたフコシル化糖鎖をはじめ、癌化に伴う糖鎖の変化のメカニズムは、糖鎖を構築する糖転移酵素によって制御されていると考えることができる。一方、MSN-1の認識糖鎖抗原と関連の深いLewis式血液型を決定しているLe遺伝子はα(1,3/1,4)フコース転移酵素(LE酵素)遺伝子であることが明らかにされている。Le酵素はI型糖鎖にはα1-4結合で、II型糖鎖にはα1-3結合でFucをGlcNAcに結合させる糖転移酵素で、ミスセンス変異(le遺伝子)のために不活化され、そのホモ接合体(le/le)の個体はLewis式血液型が陰性となる。さらに、赤血球表面のLe^bの発現に対しては、非還元末端のGalにα1-2結合でFucを結合させるα(1,2)フコース転移酵素(Se酵素)が知られており、Le酵素と同様にミスセンス変異(sej遺伝子)のホモ接合体(sej/sej)を有する個体では本酵素は不活化される。そこで本研究では、子宮体癌患者の抹消血有核細胞由来のDNAを用いてLe酵素とSe酵素の遺伝子型をPCR-RFLPの手法によって決定し、MSN-1に対する体癌組織の組織化学的反応性と比較した。MSN-1の反応性はこれらの酵素の遺伝子型とは一致しなかったが、Le^bの発現はLe遺伝子の遺伝子型と一致していた。しかしながらSe酵素が不活化されている場合でも体癌組織ではMSN-1認識抗原もLe^b抗原もよく発現しており、体癌組織で発現するフコシル化糖鎖の構築には、Se酵素以外のα(1,2)フコース転移酵素が関与していることが示唆された。
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