研究概要 |
軽度から中程度の感音性聴覚障害者数人について、基本的聴覚特性として、周波数分解能、時間分解能、ラウドネス特性を測った。いずれも健聴者より聴覚特性の低下が見られた。一般に、感音性難聴者は音響パワーが小さく過渡的な子音の聴取が困難であることから、音声聴取能力として前後母音環境下の子音認識に注目した。まず、VCV音節内の先行母音と後続子音間の空隙時間(0,50,100ms)を変えて子音明瞭度と異聴を調べた。用いた1名の聴覚障害者では、空隙時間が短いと破裂子音/d/と/t/の明瞭度は低く、異聴は別の調音点で起こったが、空隙時間が長くなるとともに、明瞭度は改善された。健聴者では、全条件で明瞭度はほぼ100%、異聴はなかった。この聴覚障害者の時間分解能(ギャップ検出閾)は健聴者より約2倍悪かった。この結果は、先行母音による後続子音への前向性マスキングの有効時間長が聴覚障害者は健聴者より長いため、子音の認識がより困難になることを示唆している。次に、65、75、85dB SPLの3つの呈示レベルで、別の聴覚障害者について明瞭度試験を行った。また、この聴覚障害者の明瞭度と、そのラウドネス特性を健聴者に模擬難聴処理したときの明瞭度を比較した。模擬難聴の結果は、呈示レベルの低下に伴う聴覚障害者の明瞭度低下の傾向を再現することができた。この聴覚障害者の聴覚特性として、更に時間分解能(振幅変調伝達特性)と周波数分解能(聴覚フィルター)も加えて、様々な組合わせで模擬難聴を健聴者に施し、呈示レベル75dBでの聴覚障害者の音声聴取結果と比較した。両者の明瞭度及び異聴の結果から、音素弁別素性ごとの情報伝達率を検討したところ、3つの聴覚特性全てを組合わして模擬した場合が最もよく聴覚障害者の音声聴取特性を再現できた。また、この聴覚障害者の場合、時間分解能のみの子音明瞭度に及ぼす影響は比較的小さいと推察された。
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