研究概要 |
Porphyromonas gingivalisを含む歯周病原性細菌の歯周局所での炎症性細胞との会合における菌体と宿主との分子生物学的な作用機構については,いまだ不明な点が多い。この点を明らかにするために,本研究は,同菌体表層に位置する線毛に着目し,本線毛がいかにして歯周局所への炎症性細胞の誘導に関わり,また,どのようにしてこれらの細胞を免疫生物学的に活性化するのかを線毛の分子構造の面から検討した。 その結果,まず,1.P.gingivalis菌体より本実験に供試するために充分量の精製線毛を調製した。また,P.gingivalis線毛のサブユニット蛋白の塩基配列をもとに,その構造をカバーする10〜20アミノ酸残基からなる部分ペプチドを合成・精製した。2.本線毛蛋白による歯周病巣部への炎症細胞の浸潤を明らかにする実験モデルとして,Boydenの多穴走化性チェンバーを用いて,ヒト末梢血単球/マクロファージに対する遊走刺激作用を検討した結果,P.gingivalis線毛およびX-Leu-Thr-X-X-Leu-Thr-X-X-Asn-X-X(Xは非共通のアミノ酸残基)を含む部分合成ペプチドは,明確な単球/マクロファージに対する遊走刺激作用を発揮した。3.炎症性細胞からのサイトカインの産生誘導能について,上述した一連の合成ペプチドを用いて検討した。その結果,P.gingivalis線毛およびX-Leu-Thr-X-X-Leu-Thr-X-X-Asn-X-X構造を含む部分合成ペプチドは,ヒト末梢血単球/マクロファージから炎症性サイトカインであるIL-1β,IL-6,IL-8,およびTNF-αの産生を有意に誘導した。また,部分合成ペプチドの構造異性体であるGly-Leu-Thr-X-X-Leu-Thr-X-X-Asn-X-Xは,P.gingivalis線毛刺激によるIL-6産生の誘導を競合的拮抗により抑制し,P.gingivalisの宿主細胞への刺激作用に対するアンタゴニストとして期待される。
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