研究概要 |
本研究では,歯周病原性細菌,Actinobacillus actinomycetemcomitansの白血球毒素産生制御の機構を細胞レベルと遺伝子レベルで検討した.得られた成果は以下の通りである. 1)遺伝子転写レベルでの制御:A. actinomycetemcomitans 301-b株のケモスタット嫌気培養では,細胞内サイクリックAMP(cAMP)レベルによって毒素遺伝子の転写が調節されている結果が得られた.すなわち,細胞内cAMPレベルが高い時,毒素産生が起こり,CAMPレベルの低下で毒素産性は著しく減少した.この現象はカタボライト抑制に類似した遺伝子転写調節機構の存在を示すものである.301-b株染色体DNAの毒素遺伝子オペロンプロモーター領域の塩基配列を分析すると,大腸菌のプロモーター部位(-35ボックスと-10ボックス)と相同性が高い部位が3カ所認められた.しかし,大腸菌でみられるcAMP受容タンパク質(CRP)の結合配列と相同性が高い部位は認められず,40-50%レベルの相同性を示す部位が5カ所みられた.15EA03:2)翻訳後レベルでの制御:白血球毒素を強く分解する反応がバッチ培養とケモスタット培養の菌体で認められた.重炭酸塩を添加したケモスタット培養の場合,その毒素分解反応の活性は0.407μg/h/mg乾燥菌体と計算された.また,見かけ上の毒素産生活性は増殖速度に依存した毒素合成と増殖速度に依存しない毒素分解反応の差であることが明かにされた. 以上の研究結果は,歯周局所におけるA. actinomycetemcomitansの病原性は,環境条件によって変化することを示唆する.
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