研究概要 |
神経系が単純な軟体動物アメフラシを用い、摂食行動が発現する神経機構の解明をめざしている。この動物の閉口筋は伝達物質としてグルタメートを用いる興奮性運動ニューロンと、アセチルコリンを用いる抑制性運動ニューロン(MA)により二重支配を受けている。一方、閉歯舌筋はアセチルコリンを放出する興奮性運動ニューロンにより支配されている。本研究は、これら摂食筋におけるアセチルコリン、グルタメート応答に寄与する受容体、チャンネルの性質、およびそれらの調節機構を明らかにすることを目的とした。実験ではパパイン処理により単一筋細胞標本を作成し、ホールセルクランプ条件下でアセチルコリン、グルタメートにより誘発される応答のイオン機構を調べた。単一閉口筋細胞をアセチルコリンで刺激すると脱分極、グルタメートで刺激すると過分極電位応答がそれぞれ誘発され、同じ細胞にアセチルコリン、グルタメート二種類の受容体が共存することが明らかになった。種々のパッチ電極溶液を用いた実験より、アセチルコリンで誘発される電流応答は閉口筋細胞ではCIイオン、閉歯舌筋細胞ではNaイオン(一部Kイオン)の流れによっていることが明らかとなった。この結果、閉口筋および閉歯舌筋に存在するアセチルコリン受容体はそれぞれCIチャンネル結合型、Na(K)チャンネル結合型であると考えられる。次にClチャンネル結合型アセチルコリン受容体の調節機構を調べるため、アメフラシで見い出された3種類のペプチド(FMRF,Myomodulin,SCPs)を作用させて実験を行った。いずれのペプチドもMAにより誘発されるIJPsの大きさを減少させた。またホールセルクランプ実験によりFMRFはCl電流そのものを減少させることがわかり、何らかの機構によりACh受容体を修飾していると考えられる。
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