研究概要 |
シスタチン分子の人工的な設計や機能変換ならびに有効利用をめざし、本年度は1.シスタチンSとシスタチンCのエクソン単位を交換した遺伝子断片(キメラ遺伝子)の構築,2.大腸菌によるキメラ遺伝子の発現・分泌,3.組換え型キメラシスタチンの生産と精製,4.キメラシスタチンのシステインプロテアーゼ阻害特性の解析,5.組換え型シスタチンSとその変異体の歯周病菌(P.gingivalis)の増殖におよぼす作用の検討などに重点を置き研究をおこなった。その結果、大腸菌によって生産されたキメラシスタチンのほとんどがシステインプロテアーゼ(フィシン、パパイン、カテプシンB、C、H)に対する阻害活性を示すことが分かった。この知見は天然型のシスタチンのアミノ酸配列を利用して人工型のシスタチン分子を設計できることを示唆する。シスタチンSのアミノ酸配列をシスタチンCの配列と交換したキメラ体はカテプシンB,C,Hに対する阻害活性が強くなった。しかしながらシスタチンSおよびCの抗体と反応するにも関わらず、全くシステインプロテアーゼの活性を阻害しない組換え型のキメラ体も得られた。天然型、組換え型および人工型のシスタチンなどのアミノ酸配列とシステインプロテアーゼの阻害特性の関係を理解するにはヒトシスタチンの立体構造の解析が必要となる。既に組換え型のヒト唾液シスタチンがP.gingivalis由来のシステインプロテアーゼ(Arg-ジンジパインやLyS-ジンジパイン)を阻害しないことをつきとめていたが、本研究によってヒト唾液シスタチンが歯周病菌(P.gingivalis)の増殖を抑制するという新たな機能が発見された。以上の研究業績はヒトのシスタチンを口腔衛生や歯科医学の分野に役立たせるための一助となる。
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