研究概要 |
各種の歯原性嚢胞及び歯原性腫瘍の増殖活性を比較するため,増殖細胞核抗原(PCNA)の免疫組織化学的検出を行った。嚢胞裏装上皮については,発育性嚢胞では歯原性角化嚢胞が高いPCNA陽性率を示し,次いで非角化型原始性嚢胞及び石灰化歯原性嚢胞で高かった。含歯性嚢胞では陽性率は一般に低かった。これらの結果は各嚢胞の臨床的な態度とよく相関すると考えられた。しかし,二次的に炎症を伴った発育性嚢胞は種々の程度に陽性率の上昇または低下を示した。 歯根嚢胞では炎症の程度によりPCNA陽性率に差があった。歯根嚢胞の上皮の基底細胞が保たれ,上皮下に軽度ないし中等度の炎症があるとき,陽性率は高かったが,炎症がつよく,上皮内への炎症性細胞の浸潤や上皮基底層の障害を伴うとき,陽性率は低かった。扁平化した萎縮性の上皮では陽性細胞は乏しかった。以上より歯根嚢胞では炎症により嚢装上皮は破壊,消失をきたす一方,一部に限局性に残存する上皮が比較的軽度の炎症性刺激により増殖し,上皮の失われた嚢胞壁内面を再裏装することが考えられた。 歯原性腫瘍ではエナメル上皮腫が一般に高いPCNA性率を示したが,歯原性角化嚢胞よりは陽性率は低かった。エナメル上皮腫の各型間の陽性率の差は十分明らかでなかったが,基底細胞型の増殖を示す部分ではやや高かった。エナメル上皮線維腫及びエナメル上皮線維象牙質腫の腫瘍上皮のPCNA陽性率は低く,これらの腫瘍の臨床的な発育の緩慢さと対応していた。これらの例では間葉成分にも若干の陽性細胞を認めた。 PCNA陽性率は上皮細胞総数に対する陽性細胞数の割合として算定したほか,上皮基底細胞数に対する陽性細胞数の割合としても表現した。後者の算定法はとくに分化傾向の明らかな上皮からなる嚢胞や腫瘍については適切であると考えられた。
|