研究概要 |
1.屠殺されたネコを対象に外頸動脈を剖出,血管造影を行い,透視下にて血管走行の検討を行ったが対象が小さく顎関節部周辺の詳細の把握が困難であること,霊長類と比較して血管の解剖学的走行がかなり異なっていたことから本研究では霊長類を対象とした。 2.他実験にて使用され,屠殺・灌流固定・脳出しされたサル頭部を得,凍結保存の後に血管造影を行った。頭頸部・顎顔面部に分布する動脈系はヒトと類似しており,特に顎関節周辺ではヒトと同一とみなしてよいと考えられた。これらを用いて外頸動脈から血管造影を行い,エックス線透視下にて血管走行の検討を行った。顎関節部周辺の軟組織を介して直接下顎頭に流入する血管は,少なくとも中程度以上の径を有するものは観察できなかった。 3.1.および2.にて実施した造影剤(バリウム塩)粉末を走査型電子顕微鏡で観察したところ,粒子の大きさは5-80μmの範囲に分布しており,微細な血管に対しては閉塞が生じる可能性があり,本研究には必ずしも適していない可能性が考えられ,常温硬化型シリコン樹脂製の血管造影剤を使用する事とした。 4.外頸動脈の分枝である顎動脈,浅側頭動脈を剖出し,これらの分枝から造影剤を注入して選択的造影を行った。一部標本において十分な造影効果が得られない場合がみられたが,これらの分枝から下顎頭への動脈血供給路を見いだすことが出来なかった。 5.脳血管の走行の研究の目的で,屠殺・灌流固定・血管鋳型用樹脂注入後に脳出しされたアカゲザル標本を使用し,動脈路の調査を行った。その結果,現在に至るまで下顎頭周辺軟組織を介して下顎頭に流入する動脈は確認されていない。 6.以上の検討より,下顎頭への血液供給は下歯槽動脈のみ現在のところ確認されており,顎関節軟部組織の障害が下顎頭の血液供給阻害を惹起し骨頭壊死を引き起こす可能性は低いと考えられた。
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