研究概要 |
歯髄疾患に伴う痛みに関係していると考えられる末梢神経ならびに中枢神経系の変化を動物実験にて解析した基礎的研究と,歯科疾患に起因すると考えられる頭頚部の痛みを主訴に歯科外来を受診した患者を対象とした臨床的調査を総合して行う有機的研究を実施し,以下の通りの実績成果を得た。 1)ラットの臼歯歯髄に細神経線維興奮性かつ起炎性物質であるmustard oilを直接適用させて化学的刺激を加え,誘発される反射性咀嚼筋活動の変異を観察した結果,主に刺激と同側の咬筋に有意な筋筋活動の増加を認めた。bradykininやcapsaicinは,mustard oilと異なるパターンの筋活動をそれぞれ誘発した。 2)ネコの歯髄にmustard oilを直接適用させて化学的条件刺激を加えつつ,下歯槽神経駆動頚髄ニューロンの応答性の変化を観察した結果,同ニューロンは一過性に応答性を増加させ末梢受容野の拡大も観察された。この事実は,mustard oilによる化学的歯髄刺激が中枢性過敏化過程の動因として関与していることを示唆している。 3)ネコ歯髄にmustard oilを直接適用させた場合の機能的単一歯周組織支配神経線維の機械的応答性の変化を観察した結果,同神経線維の応答性に過敏化が生じることが明確になった。この過程には軸索反射により歯根膜内に発生した神経原4)性炎症が関与している可能性が考えられた。 歯髄疾患に起因すると考えられる頭頚部の痛みを主訴に歯科外来を受診した患者を対象に,痛みと原因疾患との関係と明らかにすることを目的とした臨床的調査を行った結果,いわゆる感染根管症例に伴って難治性の痛みを訴える患者が多いことが明確になった。 歯髄疾患時の歯髄神経興奮性のモデル実験系として,mustard oilによる化学的刺激法は有用と考えられた。
|