研究概要 |
目的および方法:全部床義歯装着者の咬合・咀嚼能力と顎堤吸収との関連を検討するために,本学歯学部附属病院補綴科外来にて,同一術者・材料・術式による全部床義歯を製作・装着し,良好な経過を辿っている高齢無菌顎患者28名(平均年齢75.6±4.8歳)を被験者として,新たに考案した義歯支持基盤レプリカ法により義歯支持基盤面積,体積,平均高さを,咬合力計(日本光電社製)により最大咬合力を,篩分法により咀嚼効率を,CTスキャナにより咬筋断面積を各々測定した.また,若干正常有歯顎者42名(平均年齢25.5±2.4歳)を被験者として,種々の吸収因子が関与しない状態の無歯顎顎堤を想定し,歯肉頬移行部を再現した下顎研究用模型より歯冠部を切除した後に基礎床を製作してレプリカ法による各パラメータを,また,デンタルプレスケール(富士写真フィルム社製)により最大咬合力を測定した.なお,プレスケールの測定値は回帰式により咬合力計のそれに換算した. 結果および考察:若干正常有歯顎者の仮想義歯支持基盤を表示するパラメータは全部床義歯装着者の床下支持基盤のそれよりも有意に大きい値を示し,抜歯による廃用性萎縮が顎堤吸収に大きく関与していることが示唆された. 全部床義歯装着者の最大咬合力は,加齢に伴い統計学的に有意に低下したが,咬筋断面積の加齢変化には有意差は認められなかった.また,義歯支持基盤面積の増減が咀嚼効率に及ぼす影響は特に大きく,咬合・咀嚼圧が付加される方向に対して直交する面である義歯支持基盤面積が咀嚼機能の確保に重要であることが示唆され,顎堤の保全のためには可及的に大きな義歯床が必要であることが推測された.
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