研究概要 |
1.オトガイ頭頂方向エックス線写真撮影法を用いて,下顎枝矢状分割術を行った28症例の下顎頭長軸の角度変化と下顎骨の位置変化との関連を検討した.下顎骨の位置変化は,実際には複雑である.その位置変化は,平行移動と回転移動との要素に分け分析すべきであると考えられたことから,下顎骨の位置変化における回転移動に影響を受けない点として,下顎骨の前歯部,左右第一大臼歯部ならびに左右ゴニオンからなる五角形の重心に着目した.この際,この不整5角形の重心は,幾何学的作図によっては求められず,今回の科学研究費補助金によるパーソナルコンピュータを用いて,始めて求めることができた.このような,分析により,始めて下顎骨の位置変化を,その重心の移動と回転角度との要素により解析可能であった. 得られた結果を以下に記す. 2.28症例の診断の内訳は,骨格性反対咬合20例,骨格性交叉咬合5例,骨格性開咬2例,開咬を伴う骨格性反対咬合1例であった.撮影は,術直前と術後3・4週目に行った.28例を,対称症例13例と非対称症例15例とに分けた. (1)26例において,44下顎頭が術後3・4週目に内側に回転していた.対称症例13例の左右下顎頭長軸の変化角度で,大きな側の平均は3.1度,小さな側は1.8度であった.非対称症例15例では,それらは5.5度と1.9度であった.変化角度の左右差は,対称症例の12例で2.0度以下であったが、非対称症例では7例が4.0度以上であった. (2)下顎骨の位置変化では,下顎骨重心が左右棘孔間直線の中線に平行に遠心移動していた症例は,対称症例10例,非対称症例6例であった.下顎骨の回転角度では,対称症例12例は2.5度以下であったが,これらの非対称症例の4例は5.5度以上であった.他の非対称症例6例においては,下顎骨重心は左右棘孔間直線の中線に対し斜め遠心に移動していた.これらの5例においては,下顎骨の回転が3.0度以下であった. (3)対称症例と非対称症例の多くにおいて,下顎骨の位置変化と左右下顎頭長軸の変化角度とに関連が認められた. 3.以上より,下顎枝矢状分割術による下顎骨の位置変化と下顎頭長軸の角度変化とを,術前にあらかじめ予想可能となった.
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