研究概要 |
近年、細胞増殖制御に関わるp53及びp16/CDKN2癌抑制遺伝子異常が広範囲の悪性腫瘍に報告されており、代表的な癌遺伝子の一つであるras遺伝子の異常とともに注目されている。そこで今回、生検によって得られた口腔扁平上皮癌20例並びに前癌病変20例を用いて、ras,p53及びp16/CDKN2遺伝子変異を検索するとともに、免疫組織化学的染色,細胞増殖能(PCNA,AgNOR)についても検討した。p16/CDKN2については口腔扁平上皮癌のみに遺伝子欠損が2例(10%)、点突然変異が2例(10%)認められた。また遺伝子欠損を認めた2例は免疫組織染色陰性であった。p53は扁平上皮癌のみに5例(25%)の点突然変異、7例(35%)の免疫組織染色陽性例が認められ、両者はよく相関していたが、細胞増殖能とは必ずしも相関関係は見出されなかった。また2例の前癌病変においても遺伝子変異を示さないp53免疫組織陽性染色を認めたが、それらはAgNOR,PCNAともに高値を示しており細胞増殖能の亢進に伴うwild type p53タンパクの過剰発現の可能性を示唆した。K,N,H-rasでは2例のsilent mutationが検出されたのみであり口腔内腫瘍発生におけるras遺伝子変異の関与は少ないものと思われた。免疫組織染色においては扁平上皮癌に10例(50%)、前癌病変に8例(40%)のras p21陽性染色を得たが、遺伝子変異や細胞増殖能との相関関係は無く臨床指標とはなり得なかった。細胞増殖能については,PCNA index及びAgNOR(Area値,Score値)において高値を示す傾向を認めた。
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