症患や異常を理解する上で、それに類似した症状を示す動物実験モデルは極めて多くの情報を与えてくれる。本研究では歯の形成不全を示すラットの実験系を用いて、エナメル質形成不全の発現状態を観察すると同時に、その病態の分子レベルでの解析を試みた。 ラットにHEBPを投与すると切歯形成端に形成不全型のエナメル質形成障害が発現する。エナメル質の形成はエナメル芽細胞からのアメロゲニンを主成分とする蛋白性基質が分泌されることから始まる。そこで先ず、このような形成障害ではアメロゲニンがどのような動態を示すか、分子レベルで解析した。その結果、エナメル芽細胞でのmRNAの合成は障害されないことが示された。さらに、アメロゲニン蛋白の合成も実際に行われている可能性が示唆された。ところが、エナメル基質の蓄積は生じていない。したがって、本実験系ではエナメル芽細胞の分泌機能が障害されているか、あるいは分泌されても会合できない様な異常な蛋白が合成されている可能性が考えられた。 ところで、低石灰化型エナメル質形成不全症の患者の口腔内に崩出した歯のエナメル質が分析したところ、アメロゲニンが多量に含まれていることが示された。また、白血球を用いた遺伝子解析も試みたところ、アメロゲニン遺伝子の異常は確認されなかった。これらの事から、この症患ではアメロゲニンが分泌されてエナメル質は形成されるが、この後の石灰化の過程に障害が発生していることが示唆された。 以上のことから、アメロゲニン遺伝子の発現に異常が無くても、形成不全型と低石灰化型の異なるエナメル質形成不全が発生する事が確認された。これらの結果は後天的な障害因子によって発生するエナメル質減形成症の発生機構を考える上で多くの情報を与えるものであった。
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