研究概要 |
遷移金属錯体を用いる有機反応の開発は、現代有機化学の分野で最も活発に行われている研究分野の一つである。この主な理由としては,極めて高い立体選択性の獲得が可能となることが挙げられる。著者のこれまで,その環上に多くの不斉中心が存在しているアルカロイドやプロスタノイド等のヘテロ脂環式生物活性物質の合成を行ってきたが,今回これらアルカロイドの高立体選択的な合成法の開発を目的として,遷移金属錯体を用いるオレフィンへのヘテロ原子の分子内環化付加反応の検討と天然物合成への応用を行った。 まず,遷移金属錯体を用いる分子内付加環化反応を行うにあたって,基質として分子内にオレフィン部とウレタン部を有し,環化生成物が天然物の合成素子と成り得る基質を数種類分子設計し,容易に得られるアリルアルコール体の香月-Sharpless不斉酸化を経由して合成した。これらの光学活性な基質の環化反応をパラジウム(II)触媒を用いて行ったところ,2,5-trans-ピペリジン体や2,6-trans-ピペリジン体を立体選択的に得ることが出来た。一方,銀塩を用いて反応を行ったところ2,6-cis-ピペリジン体を立体選択的に得ることが出来た。このように、同様の基質から遷移金属錯体を変えるだけで,立体化学の異なったアルカロイドの基本骨格を立体選択的に作り分けることが出来た。著者らの開発した手法は,アルカロイド合成に極めて有用な手段を提供するものと考えている。実際著者は2,6-trans-ピペリジン体から(+)-prosopinineへの変換を、また2,6-cis-ピペリジン体から(+)-palustrineの合成中間体への変換を行った。 これらの成果に関しては学会を通じて多数発表して来た。さらに現在,これらの成果を2編の論文にまとめ投稿中である。
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