研究概要 |
最近,遷移金属触媒を用いた有機合成反応は画期的な進歩を遂げ,広く有機合成化学に用いられるようになってきた。効率の良い不斉合成法を開発するために,キラルπ-アリルパラジウム錯体を経由する不斉反応について検討した。 α-Olefinic cyclopropane誘導体にパラジウムを作用すると中間体としてπ-アリルパラジウム錯体を形成し、つづいて1,3-転位をおこし,cyclopentane体を生成する。Dimethey1 2-(1,3-butadienyl)-1,1-cyclopropanedicarboxylateに遷移金属触媒を作用すると、π-アリル遷移金属錯体を経由する分子内求核置換反応をおこし,cyclopentene誘導体を生成する。本反応をキラルホスフィン配位子の存在下で行うと,不斉vinylcyclopropane-cyclopentene転位をおこし,光学活性のcyclopentene体を与える。キラルホスフィン配位子としては(+)-MOD-DIOPおよび(-)-BINAPが不斉誘起の発現に最も効果的であった。また,本反応のエナンチオ選択性は溶媒による影響を顕著に受ける。THF,DME,DMF,benzeneを溶媒とする場合には,反応の不斉収率は非常に低いが,DMSO,CH3CNを溶媒として用いると不斉収率は極度に上昇する。生成物の絶対配置は,(R)-3-ethylcyclohexanoneと化学相関することにより決定された。 さらに,キラルスルフィニル基を環上に有するシクロプロパン系で行うと,キラルα-スルフィニル-π-アリルパラジウム錯体を経由する不斉転位反応をおこすことになる。キラルvinyl sulfoxideにdimethyl bromonalonateのカルバニオンを作用して得られる光学活性のcyclopropane化合物dimethly (Ss,R)-2-(1-propenylおよび1-butenyl)-2-(p-toluenesulfinyl)-1,1-cyclopropanedicarboxylateをパラジウム触媒反応に付すと,高立体選択的に不斉1,3-転位し,光学活性のcyclopentene体を得ることができる。新たに生じた不斉炭素の絶対配置は(R)-2-methyl及びethylcyclohexanoneと化学相関することにより決定され,これを基にしてその転位機構を明らかにした。
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