研究概要 |
丹参(タンジン)および沢蘭(タクラン)はシソ科植物に由来し,両者とも中国医学で駆於血生薬とされる。我々は内皮保護血管平滑筋を弛緩させるこの2生薬の化学成分を追求した。1.丹参はSalvia miltiorrhizaの乾燥根である。化学成分としてlithospermic acids(LSAおよびLSA-B)が知られる。我々はLSA-Bがラットで血圧降下作用を示す物質であり,この作用はLSAが大動脈,腸間膜動脈床のような抵抗血管において内皮依存性血管平滑筋弛緩効果を持つことに帰せられることを報告した。活性成分追求の途上,我々は丹参成分として従来知られていない強力な血管弛緩物質の存在を知った。2年間に渡る研究の結果,強力な血管弛緩物質は(2S,3S)-4[(E)-2-carboxyethenyl]-2-(3,4-dihydroxyphenyl)-2,3-dihydro-7-hydroxy-3-benzofurancarboxylic acid(dePL- LSA=8-epiblechnic acid)であることを明らかにした。LSAおよびLSA-Bのアルカリ加水分解により同物質の化学構造の確認と量的確認を達成した。さらに,dePL-LSAは10^<-7>M濃度で,血管内皮の存否に拘らず,norepinephrine(NE)誘導大動脈標本の収縮を緩慢で持続的に弛緩させた。他の薬理学的実験結果を考慮してdePL-LSAはCa^<2+>の細胞内移動能を減少させることにより,NE誘導大動脈収縮を阻害すると推定された。DePL-LSAはNE誘導の持続的収縮を阻害するから,高血圧治療に有用と思われる。2.沢蘭として市販される生薬はフジバカマ(キク科)の地上部を基原とするものが多いので,我々はシロネ(Lycopuslucidus)を平成6年度に栽培し,研究材料とした。このエキスからクロマトおよび化学的操作を経て得られた3化合物が血管平滑筋弛緩効果を示した。いずれの化合物も内皮依存性弛緩物質ではないと推定される。これらの化合物の同定,作用強度,作用機序についてはさらなる検討を要す。
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