研究概要 |
本研究では,蛋白結合におけるアニマルスケールアップの信頼性向上を目的として,ヒト血清アルブミンにおける立体構造及び薬物結合性データを基に,薬物の血清アルブミン結合における種差について検討を行い,以下の知見が得られた。 1)ヒト,ウシ,イヌ,ウサギ及びラット血清アルブミンのSDS-PAGE並びにキャピラリー電気泳動を測定した結果,各アルブミン種はほぼ同じ分子量を有するものの,分子表面の荷電状態に明らかな差異が認められ,イヌやウサギは他の動物種よりも負に帯電していることが判明した。また,遠紫外領域のCDスペクトル測定結果より,二次構造を推定したところ,いずれの種のアルブミン構造も大部分がα-ヘリックスによって占められていることが明らかとなった。 2)示差走査熱量計(DSC)により,熱変性時における転移温度及び転移エンタルピーを求めた結果,イヌ及びウサギ血清アルブミンは立体構造の揺らぎが大きく,熱変性の際は各ドメインが異なった挙動を示し,多状態転移をとることが明らかとなった。一方,ヒト,ウシ及びラットの場合には,立体構造の揺らぎが小さく,イヌやウサギに比べ秩序だった構造をしていると考えられた。 3)各種アルブミン分子上における薬物間の相互作用を競合的,協同的及び独立的結合モデルに基づいて解析したところ,動物種アルブミンにおいてもヒトと同様,複数の薬物結合サイトが存在することが示唆された。 これらの知見は,血清アルブミン分子の構造特性と薬物結合能を理解する上での重要な基礎データになると共に,蛋白結合におけるアニマルスケールアップの正しい評価につながるものと思われる。
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