研究概要 |
1,自立的増殖可能な細胞株の樹立:細胞成長因子類を一切必要としない細胞株は、血清要求性のヒト由来の親株から、アミノ酸と塩類から成る合成培地で、各々数カ月から1年間程度培養を続けることにより選抜した。樹立の過程では、血清を培養液から除去するとすぐに死滅するもの、あるいは1カ月ほどのあいだに徐々に死滅するものなど、血清に対する要求性についていくつかのパターンが在った。最終的に、胃癌、大腸癌、卵巣癌、肺癌由来の癌細胞株などから、血清や細胞成長因子を全く必要とせず増殖可能な細胞株合計31株を1年半で樹立した。 2,自立的増殖可能を獲得した細胞株におけるプロテアーゼやプロテアーゼインヒビターの分泌や遺伝子発現の検討:上記の細胞株を用い、ザイモグラフィーでプロテアーゼ活性をリバースザイモグラフィーでプロテアーゼインヒビター活性を、ノーザンブロットによりプロテアーゼ遺伝子の発現を調べた。その結果、悪性胃癌細胞株でトリプシン様のプロテアーゼ活性が検出され、この蛋白質がトリプシノーゲン1であることを同定し、血清非要求性の自立的に増殖する細胞株では、親株の血清要求性の株よりも遺伝子の発現が増加していることを見い出した。 3,トリプシン遺伝子の発現を調節している因子類の解析:この悪性胃癌細胞株を用いて、血清や種々の細胞成長因子類がどのようにトリプシノーゲン1遺伝子の発現を調節しているのかを調べたところ、血清やフォルボールエステルあるいはTNFなどがこの遺伝子の発現を抑制的に調節していることを明らかにした。 4,他の癌細胞株におけるトリプシノーゲン1の発現と無血清下における遺伝子発現の変化についての検討:この悪性胃癌細胞株ばかりでなく、複数種の胃癌や大腸癌細胞株においてトリプシノーゲン遺伝子の発現を見い出した。しかし、血清成分によりその遺伝子発現が抑制されるものは胃癌由来の2株のみであった。
|