研究概要 |
本研究は抗血栓性タンパク質であるトロンボモジュリン(TM)のレチノイン酸(RA)による転写活性化反応と腫瘍壊死因子による転写抑制反応をその遺伝子上流の塩基配列との関係から明らかにし,特にRA酸応答配列と核内タンパク質との相互作用の上から解明すること目的として検討した。 平成6、7年度の研究業績は以下にまとめられる。 1.TM遺伝子の転写開始点から約200bpと約220bp上流部分にそれぞれ基本転写活性に必須な塩基配列と転写活性を負に制御する塩基配列が、またTATAボックスの少し上流領域に腫瘍壊死因子依存性の転写抑制にかかわる塩基配列が存在する。 2.TM遺伝子の転写開始点から約1500bp上流と約200bp上流にはRA応答に関与する2つの領域(遠位領域と近位領域)が存在し、前者には典型的なRA応答配列が、また後者はSp1結合配列が存在する。 3.両領域はRA処理による転写活性に対して相加的に作用し、それぞれの欠失によって転写活性は低下する。 4.RA処理によりRARβmRNA量は増加、RARαmRNA量は減少し、Sp1、SPR-1とSPR-2のmRNA量は増加する。 5.RAR-α,RAR-β,RAR-γ,RXR-αの細胞内での発現は遠位および近位RA応答配列によるRA依存性の転写促進作用に影響しない。 6.核内転写因子のSp1は近位RA応答領域に結合するが、AP1は結合しない。 以上により、TMのRAによる発現増加と腫瘍壊死因子による発現低下は遺伝子レベルで互いに独立したものであること、TM遺伝子上流には2つの異なるRA応答配列が存在し、遠位領域はRAレセプターサブタイプのいずれかと未知の核内タンパク質とのヘテロダイマーを介して、また近位領域はRA処理によって増加するSp1関連転写因子の発現増加を介してTMの転写促進作用に関与していることが明らかになった。
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