研究概要 |
筆者らは、主にラット肝臓を用い、thetaクラスGST Yrs-Yrsの構造と機能ならびに本酵素の各種実験動物における種差・性差に焦点を絞り、この3年間の研究によって、下記の成果を挙げることができた。 1)ラット肝λgt11cDNAライブラリーよりGST Yrs-YrsをコードするcDNAクローンを単離し、その一次構造が解明された。上記で得られたcDNAが組み込まれた発現ベクターpKK223-3により形質転換された大腸菌から発現タンパク質を既報に従って単離・精製した。得られた発現タンパク質の基質特異性ならびにその他の諸性質は、ラット肝細胞質から得られたGST Yrs-Yrsと全く同一であった。 2)ラット以外の汎用実験動物(マウス、ハムスター、モルモット)において、これまで全くその存在が不明である本酵素の臓器分布が、本酵素の特異基質である活性硫酸エステルのGSH解毒抱合活性ならびに本酵素抗体を用いたWestem blot分析により解明された。すなわち、活性硫酸エステルに対するGSH解毒抱合活性の臓器分布はいずれの動物種に於いても肝臓>>腎臓>副腎>肺、脳、精巣、卵巣>心臓の順であり、皮膚、小腸、骨格筋および脾臓では同活性は認められなかった。また同活性の顕著な性差は認められなかったが、種差は顕著でラットおよびマウス肝の同活性はモルモットおよびハムスターの10倍であった。GST Yrs-Yrs抗体を用いた臓器分布はラット、マウスおよびモルモットは、上記酵素活性の臓器分布とほぼ一致した。 3)SD雄性ラット肝細胞質画分から両thetaクラス酵素をSDS-PAGE、逆相分配HPLC的にそれぞれ均一な酵素タンパク質として単離・精製する方法を確立した。またこの精製結果よりラット肝中の両thetaクラス酵素の存在量(総可溶性タンパク質の0.5%)ならびに存在比(Yrs-Yrs:5-5=7:1)が初めて明らかになった。両酵素の基質特異性は、他クラスのGSTの汎用基質である1-chloro-2,4-dinitrobenzene(CDNB)に対して殆ど活性が無く、過酸化物を還元するGSH Px活性が他のクラスの分子種に比べ非常に高いというthetaクラスに特徴的な共通部分を除くと大きく異なり、一方のGSTにとっての特異基質(5-sulfoxymethylchrysene(Yrs-Yrs);1,2-epoxy-3-(4′-nitrophenoxy)propaneおよびdichloromethane(5-5)は他方の基質とはなり得なかった。 GST5-5より調製された抗-GST5抗体は、ラットalpha,mu,およびpiクラスのGST分子種のみならず、GST Yrs-Yrsとも全く免疫交差性を示さず、また同様に抗-GST Yrs抗体もGST5-5とは免疫交差性を示さないことが初めて明らかになった。
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